名大生の稀覯本日記

月に30~70冊ほど本を読むド暇名大生による、気まぐれな書評ブログです。

マンガを鑑賞する

 

こんにちは。今日は、「現代マンガの冒険者たち」という本を紹介します。

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1.美術はどうやって評価される?

マンガって面白いですよね。残念なニュースではありますが、今年は「漫画村」の流行もあり、マンガが日本人にとって非常にポピュラーなエンターテインメントになっていることを否定する人はおそらくいないと思います。

 

一方で、マンガの感想を求められると、どうもその内容は「面白い」「面白くない」の2パターンに分かれてしまうことが多いなぁとも思います。

もちろん、それが悪いことだと申しているのではありません。私が言いたいのは、「マンガを鑑賞してみるのもいいのでは?」ということです。

 

ちょっと、そもそものところまで戻ります。なぜ、マンガは「面白い」「面白くない」という価値観で消費されるのでしょうか。

それは、当たり前といえば当たり前ですが、マンガ=娯楽として捉える人が多いからでしょう。

 

 

 

しかしです。マンガは、漫画家というクリエイターが生み出しているものです。この観点で見れば、マンガは美術や文学、音楽と何ら変わらない、文化的な所産であるわけです、

 

少し本筋からそれますが、美術や音楽を鑑賞するときって、多くの人はどうしているでしょうか?ちょっと手元の本から引用してみましょうか。

 

そして、美術界にも社会主義者のギュスターヴ・クールベ(1819~77年)が登場します。クールベ二月革命による第二共和制を支持した共和主義者(共和制民主主義者)であり、社会主義思想にも共鳴していました。

(中略)

1850年のサロンに出品された「石割人夫」と「オルナンの埋葬」では、貧困層の労働者や田舎の聖職者、農民など、伝統的に絵画の主題としては「美しくない」とされ、タブーとされた庶民たちを「高貴」な歴史画のサイズで描きスキャンダルを巻き起こします。

 

 

(『世界のビジネスエリートが身につける教養 西洋美術史』木村泰司 ダイヤモンド社 P178,179 より引用)

 

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↑「石割人夫」ギュスターヴ・クールベ

 

 

前半部をよく見てみましょう。

 

そして、美術界にも社会主義者のギュスターヴ・クールベ(1819~77年)が登場します。クールベ二月革命による第二共和制を支持した共和主義者(共和制民主主義者)であり、社会主義思想にも共鳴していました。

 

ここでは、クールベという人が何を描いたかではなく、どういう人なのかを記述しています。

ここはすごく重要で、絵画の鑑賞では著者がどういう人かという要素も絵画の評価に大きく関わってきます。

 

つづいて、後半を再掲します。 

1850年のサロンに出品された「石割人夫」と「オルナンの埋葬」では、貧困層の労働者や田舎の聖職者、農民など、伝統的に絵画の主題としては「美しくない」とされ、タブーとされた庶民たちを「高貴」な歴史画のサイズで描きスキャンダルを巻き起こします。

 

 ここで描かれていることはさっきよりもっと決定的です。ここでは、「当時このテーマを選んだことの意義」が言及されています。伝統的に、西洋絵画では神話や宗教画、貴族をテーマに選ぶことが多かった。そんな中、クールベは「美しくない」労働者を、同じくらいのスケールで描いた。クールベの絵が今でも評価されているのは、ここにあります。

 

 

まとめます。

僕らは、絵を見ると、普通は「絵がうまいかどうか」で絵を評価してしまいがちです。しかし、クールベの絵を評価する軸としては、「作者はどういう人か」「当時の価値観の中ではどれだけ斬新だったか」が取り上げられました。実際、この情報なしにこの絵を見ても、「やたら地味な画だな」くらいにしか思えません。しかし、この二つの情報を知ったのちにもう一度「石割人夫」を見ると、ちょっと印象が変わってきませんか?つまり、美術を評価する際には、絵自体の知識以外も要求されるわけです。

 

 

2.マンガだって…!

もうここまで話せば、結論は見えています。つまり、マンガも文化的な所産なんだから、「面白いかどうか」以外の評価軸で見てあげては?という提案がしたいのです。

 

もちろん、「面白い」という感性を否定したいわけでは全くありません。ムンクが生きた時代、ムンクの人となりを知らなくても、「叫び」を見れば鬼気迫るものを感じます。小学生のころの自分でも、「風神雷神図屛風」を見て、まるで風神雷神が動き出すようなダイナミズムを感じました。そういう直感は、どんな芸術を鑑賞する際でも大事です。

 

ただ、「面白い」の先にある、言語化できていない感想は必ずあります。例を挙げましょう。

 

DRAGON BALL』でおなじみの鳥山明先生は、よくネットでも「構図がわかりやすい」と言われます。

 

 

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(『DRAGON BALL 27巻』より)

 

確かに、3コマ目を見れば、悟空(長髪の男)がレーザーを避けているのはたちどころに理解できます。しかし、なぜそうだとすぐに理解できるのでしょうか?そもそも、このコマに悟空は三人以上描かれています。これを見て、「悟空が分身した」と理解してもおかしくないわけです。でも、我々はそうは捉えない。その理由を探っていくだけでも、深い洞察ができると思います。

 

それから、当たり前のようにこの場面を僕らは読んでいますが、このページのコマは全て視点移動が起きています。これはなぜでしょうか?そして、その視点移動による効果は何でしょうか?

 

こういった、当たり前のように読んでいた部分を改めて考えてみると、面白いことがわかることがありますよ。

 

 

 

 3.「現代マンガの冒険者たち」

さて、遅くなりました、本の紹介です。

 

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「現代マンガの冒険者たち」黒田信長 NTT出版

 

この本は、いわゆる現代マンガの評論・分析本。各時代におけるエポックメーキングな漫画家を独自のチョイスで取り上げ、分析します。

漫画家の系統図を示し、誰が誰から影響を受けたかはっきりと示している点が評価できます。それから、各漫画家の斬新な表現にも注目し、どういう点で巧みなのかをきちんと述べてくれるのもいいですね。

 

マンガ好きだったり、マンガを深い読み方で読みたいと思っている方は是非読んでみてはいかがでしょうか。ただの分析本にとどまらず、マンガのブックガイドとしても機能しますよ。